百田尚樹著『フォルトゥナの瞳』

久し振りの読書評です。
『風の中のマリア』『ボックス』』『錨を上げよ』『永遠の0』『海賊と呼ばれた男』等、百田尚樹の作品には肉厚で読み応えのある作品もありますが、『フォルトゥナの瞳』、これはどうでしょうか。
一言でいえばちゃちゃっと書いて、ちゃちゃっと出版かな。
人気作家になりすぎて、作品の中身が薄くなってますね。
こんなのを読むと、安売り量産の作家だと思えてしまう。

死後の世界とのコンタクトをモチーフにした作品には、天童荒太『悼む人』や浅田次郎『椿山課長の7日間』がすぐ思い浮かびますが、『フォルトゥナの瞳』は先のストリーはおろか結末まで読めてしまうので、小説の世界にどっぷり浸かれないですね。
ラストページでは、思った通りの展開になってさらにがっかりしました。
映画化するには面白いかもしれませんが、それもB級作品。
小説としてはもっと読ませてほしかったと思いますね。

好きな作家なので、あえて辛口評です。
*2017.1.20読了

851611288.jpg

★メインサイト「琺瑯看板探検隊が行く」もどうぞご覧ください★

↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪ 
にほんブログ村 オヤジ日記ブログ 50代オヤジへ

 
スポンサーサイト
[ 2017/02/06 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

蛭子能収著 『ひとりぼっちを笑うな』

13万部突破の新書。
副題に『内向的人間の幸福論』とある。
実はこれ、新聞の書評をみて、読みたくなった本。

蛭子さんはテレビの露出も多く、印象としては限りなく"変なおじさん"である。
事実、地そのままをいく、我がままな変なおじさんなんだけど、反面、それを補って余るほど"良い人"。

できるだけ目立たずに、出しゃばらない。
自己主張なんてとんでもない。
友達は作らない。
ひとりぼっちは楽しい…

こうした蛭子さんのポリシーは、実は、自分にとって思いっきり共感ができる。
同じ匂いを感じるのだ。

今の仕事をする上で、人とのコミュニケーションや、状況によっては積極的な関わりが不可欠であるが、できれば、そんなもの全部捨て去って、一人になり、楽になりたいと絶えず思っている自分がいる。
群れなくてはやっていけない職場社会で、群れたくない自分は、絶えず心の葛藤を感じている。
休日はいつも一人で、好きなことをするのが自分流だし、一人でいることのほうが性に合っていることも蛭子さんと同じである。

…かといって、孤独が好きなわけではない。
矛盾しているかもしれないが、私のことを肉親以上に理解しているカミさんといることが自分にとって一番落ち着くのも事実で、
できれば単身赴任から一刻も早く解放されたいと思っているくらいだ。

人づき合い、って本当に必要なんだろうか。
社会のルール、習慣に惑わされて、人や地域社会と接点を持っていくことが流れ作業になっていないだろうか。
人づきあいをしなくても、生きていくことはできないだろうか。

ひとりぼっちを笑ってほしくない…
人間は一人で生まれて、一人で死んでいく。
死ぬために生まれてきたということを忘れてはいけない。

"変なおじさん"の蛭子さんの本、"変な自分"には思いっきり、どストライクでした。

evisu2510.jpg

★メインサイト「琺瑯看板探検隊が行く」もどうぞご覧ください★

↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪ 
にほんブログ村 オヤジ日記ブログ 50代オヤジへ

 
[ 2016/02/27 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

武良布枝著『ゲゲゲの女房』

今さらですが、2010年にNHK連続ドラマになった『ゲゲゲの女房』の原作を読みました。
昨年の暮れに水木しげるが亡くなったこともあって、手に取ってみました。

僕にとって水木しげるは、手塚治虫、石ノ森章太郎、藤子不二雄と並ぶ漫画界の巨匠。
子供の頃からのファンで、むさぼるように読んでいました。
もちろん、『ゲゲゲ』ではなく、『墓場の鬼太郎』時代からなので、相当に長いつきあいです。

中学時代はちょっとませたガキだったんで、月間漫画雑誌『ガロ』を読み、水木しげる、つげ義春の作品がご贔屓でした。

さて、この本の著者は水木しげるの奥様である武良布枝さん。
水木との結婚から晩年までを、さらりとたんたんとした筆致で綴っています。

貧乏時代の話も壮絶ですが、明るく笑顔を忘れずに乗り越えていくその姿が、日本女性の芯の強さと相まって感心します。
夫を立てる謙虚さと、たくさんのやさしさが文章に溢れていますね。
一気読みでしたが、読後感も爽やかでした。

この本を読んでから、ドラマも観たくなってしまい、YouTubeにアップされている動画を探してみたら総集編がありました。
何と、3時間ぶっ通しで観ました(笑)。

松下奈緒の演技がイメージ通りで良かったですね。

『マッサン』以来、連ドラマニアになって、このところは『あさが来た』の録画を毎日楽しみにしているくらいですが、『ゲゲゲの女房』を見逃したのは今さらながらに後悔しています。

総集編を観た限りでは、原作に忠実だったのも好感が持てました。


51YSO4BV3fL__SX350_BO1,204,203,200_


★メインサイト「琺瑯看板探検隊が行く」もどうぞご覧ください★

↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪ 
にほんブログ村 オヤジ日記ブログ 50代オヤジへ

 
[ 2016/01/26 ] 読書 | TB(0) | CM(2)

村上龍著 『55歳からのハローライフ』

村上龍の『55歳からのハローライフ』(幻冬舎文庫)を読んだのは3か月前だけど、今年になってNHKでドラマ化されることになり、6月14日から始まった毎週土曜日の放映をワクワクしながら観ていた。

原作は以下の5話で構成されている。

1.結婚相談所
2.空を飛ぶ夢をもう一度
3.キャンピングカー
4.ペットロス
5.トラベルヘルパー

ドラマは順番は違えど、演技派の役者揃いで楽しめた内容。
何より、原作に忠実に描かれていたのが評価できる。
中でも、昨日7月12日放映の「空を飛ぶ夢をもう一度」は、東京山谷のホームレスというディープなロケなので、映像化は難しいだろうな…と思っていましたが、イッセー尾形や火野正平の熱演で、小説を超えるようなインパクトがありました。

小説のあとがきで、村上龍は、
"主人公たちは、人生の折り返し点を過ぎて、何とか再出発を果たそうとする中高年である。体力も弱って来て、経済的にも万全ではなく、そして折に触れて老いを意識せざるを得ない。そういった人々は、この生きづらい時代をどうやってサバイバルすればいいのか?"
その問いが作品の核だった。
…と書いている。

この作品に思いを込めた作者・村上龍の意図は、55歳という老後を意識するとば口に立った人々が、様々な環境の中でこれからの自分の生き方を見つめ直すことへの応援歌にあるようだ。
主人公のスタイルも、お金に困って老後が不安な人や、60歳を過ぎても一人身のその日暮らし、熟年離婚した主婦、早期退職して自分の夢を追うも妻との考え方の乖離に悩む人等、様々なパターンを取り上げている。

かく言う僕も55歳。
思い描くこれからの人生は漠としたものしかなく、カミさんと老後の設計を話し合っているわけでもない。
残り数年に迫った定年と、それからのハローライフを考えてみたくなった。

55歳からのハローライフ (幻冬舎文庫)55歳からのハローライフ (幻冬舎文庫)
(2014/04/10)
村上 龍

商品詳細を見る
[ 2014/07/13 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

R.Dウィングフィールド著 『冬のフロスト』と『A Killing Frost』

待ちに待った作品、R.Dウィングフィールド著『冬のフロスト』(上下巻 創元推理文庫)を読了。
前作『フロスト気質』の邦訳上梓が2008年なので、実に5年間も待たされたわけだ。
自分にとってイギリスの正統派ミステリはなじみが薄いが、この作品は別格で世界を代表する警察小説の金字塔だと勝手に思っている。
主人公のフロスト警部は風采が上がらない、行き当たりばったりのいい加減なオヤジ。
更にセクハラたっぷりの下品なトークの連発となれば、ユーモアを通り越して引いてしまう場面も多い。
しかし、知らないうちにこの人物の魅力にぐいぐい引き込まれてしまうのが不思議だ。
気づいたときには上下巻1000頁を一気に読まされてしまうのだ。

本国イギリスでは1984年の『クリスマスのフロスト』からシリーズが始まり、現在2008年に発表された『A Killing Frost』までが出ている。
シリーズは『A Killing Frost』で完結となる。その理由は著者のウィングフィールドが2007年に亡くなっているからだ。邦訳は2020年以降となるという情報もあり、いつの日か原書版のペーパーバックに挑戦してみようかとひそかに思っている。

ともあれ、パワフルで、下品で、やさしくて、人情味があって…そして哀愁が漂うフロスト警部。
猛烈に忙しい主人公の魅力に、どっぷりとはまらせてもらった。

冬のフロスト<上> (創元推理文庫)冬のフロスト<上> (創元推理文庫)
(2013/06/28)
R・D・ウィングフィールド

商品詳細を見る

冬のフロスト<下> (創元推理文庫)冬のフロスト<下> (創元推理文庫)
(2013/06/28)
R・D・ウィングフィールド

商品詳細を見る

A Killing FrostA Killing Frost
(2008/05/13)
R.D. Wingfield

商品詳細を見る
[ 2014/01/19 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

黒野伸一著 『限界集落株式会社』

日本全国には限界集落が1万カ所以上あるという。
限界集落とは、過疎化などで人口の過半数を65才以上の高齢者が占める地域であり、公共機能が低下している地域をいう。
無医村、公共交通機関、教育機関の廃止、郵便局や生活必需品を買う施設もない。
いわゆる「ないないづくし」の状態になっている地域が限界集落である。

黒野伸一著『限界集落株式会社』は、そんな限界集落を舞台にし、農業で村おこしを目指す物語だ。
都心のIT企業を辞めて、祖父の家がある限界集落に戻った主人公が村人を動かし、
村の存続を目標に、農業を軸に復興と活性化を行っていくストーリーはなかなか痛快である。

小説の世界とはいえ、地方を取り巻く今の行政のあり方にも一石を投じる内容であり、なかなか読ませてくれた。☆☆☆☆★

限界集落株式会社限界集落株式会社
(2011/11/25)
黒野 伸一

商品詳細を見る
[ 2013/12/08 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

高山文彦著 『エレクトラ~中上健次の生涯』

中上健次は気になる作家の一人だが、なぜかこれまでその作品に触れたことがなかった。
苦手な純文学、芥川賞作家、難解な表現、更に作家から匂う暴力的な風貌が自分の中で危険信号となって増幅し、
触れてはいけないイメージと重なって、ずっと敬遠していたのかもしれない。

中上の生涯を描いた高山文彦『エレクトラ』は、このところの出張の友として鞄に入れていた。
作者は被差別部落で生まれ育った中上の少年時代から、作家として認められていく過程をあますことなく綴っていく。
46歳で逝く晩年では、中上が故郷・新宮の路地にこだわる心境を見事に分解、分析してみせる。
この手法は出世作となった『火花~北条民雄の生涯』で確立した、執拗なまでの取材が基盤となっている。
これまで中上作品を読んだことがない僕にも、すぐに手に取ってみたくなる魅力的な表現があふれているのだ。

あまたのノンフィクション作家がいるが、高山文彦は自分の中では格別の存在として位置づけたくなった。

***********************************************************************************

【後日談】
中上健次の作品が読みたくなって市内の大型書店やブックオフに足を運んだが、一冊も置いていない!!
三部作『岬』『枯木灘』『火宅』ぐらいはあるだろうとタカをくくっていたけど…中上健次は過去の作家になってしまったようだ。
仕方ないので、今度は近所の図書館に行ってみたが、ここにもない。
こうなると意地でも探してやる…とばかりに、ネットオークションを漁っています。

エレクトラ―中上健次の生涯 (文春文庫)エレクトラ―中上健次の生涯 (文春文庫)
(2010/08/04)
高山 文彦

商品詳細を見る
[ 2013/06/30 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

いとうせいこう&みうらじゅん著 『見仏記6』

20年も続いている人気シリーズ。仏像ブーム?はここから始まったといってもいい。オタクっぽいい作家のとうせいこうと、子供がそのまま大人になったようなイラストレーターのみうらじゅんの絶妙なコンビネーションがこのシリーズのウリである。
地味で抹香臭い仏像の世界を、ポップな感覚で書いていくいとうと、さらにその上を行くみうらのセンスにぐいぐい引き込まれてしまう。このシリーズの良いところは、いきあたりばったりの旅の要素と、みうらの何をしでかすか分からない先が見えない天然的な行動に目が離せないところ。
それでいて、仏像のウンチクはかなり専門的な分野にまで発展するので、思わずすぐにでも(仏像を)見に行きたくなってしまう。見仏記6は、私の地元でもある東海地方の円空仏も取り上げられており、龍泉寺や荒子観音の項を興味深く読んだ。
それにしても、みうらじゅんは私と同年齢とは到底思えない。これは良い意味で言っているのだが、子供の心をそのまま持ち続けていく大人のなんと素晴らしいことか。広く、みうらの作品に触れるにつけ、その表現や行き方への羨ましさがどんどん倍加していくのだ。

見仏記6 ぶらり旅篇 (角川文庫)見仏記6 ぶらり旅篇 (角川文庫)
(2012/08/25)
いとう せいこう、みうら じゅん 他

商品詳細を見る
[ 2013/02/07 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

佐野眞一著 『怪優伝~三國連太郎・死ぬまで演じつづけること』を読む

89歳にして現役、名優・三國連太郎の対話ノンフィクションである。
三國が自薦した映画10本を著者と鑑賞し、対談形式でその時折の心の内を探っていくという内容。
ストレートかつ、内面をえぐるようなインタビューは佐野眞一の真骨頂がよく出ており、
三國の謎めいた生きざまに迫る作品に仕上がっている。
『飢餓海峡』『利休』など選ばれた映画の中でも、以前から気になっていた作品があったので、
早速レンタルしてきた。

山田洋次監督作品の『息子』(1991年)は、椎名誠の原作の映画化で、三國68歳の作品。
息子(永瀬正敏)の父親役を演じる三國は、黒沢明監督『生きる』で志村喬が演じた老人役をほうふつとさせる雰囲気があった。肩の力を抜いた自然体の演技は、改めて三國の凄さを感じた。
また、息子の恋人役で聾唖のヒロインを演じた、当時21歳の和久井映見の初々しさと美しさが光っていた。

さて、三國連太郎であるが、今年7月に三國が心筋梗塞で急逝というニュースがネット上に出回った。静岡県沼津市の老人ホームにいるという情報もあり、さすがに役者である。いくつになっても謎めいた人物である。

怪優伝――三國連太郎・死ぬまで演じつづけること怪優伝――三國連太郎・死ぬまで演じつづけること
(2011/11/16)
佐野 眞一

商品詳細を見る


あの頃映画 息子 [DVD]あの頃映画 息子 [DVD]
(2012/12/21)
三國連太郎、永瀬正敏 他

商品詳細を見る
[ 2012/11/10 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

佐野眞一著 『別海から来た女』

睡眠薬と煉炭を使った連続殺人で、平成の毒婦として有名になった木嶋佳苗のノンフィクションである。
世の男たちは、なんであんなデブ、ブスに騙されてしまうのか?
世間の関心はこれしかないから、事件後、この一点を興味本位に扱った情報がわんさと出た。
今年4月に木嶋に死刑判決が出たあと、被告は即刻控訴するが、その後、この事件に関わる報道も一旦は終焉したかのようだ。
そこにきて、佐野眞一の新刊ということで本書が上梓されたから、にわかにまた木嶋佳苗ブームが起こっている。
さて、この作品であるが、いつもの佐野の取材セオリーどおり、まずは木嶋のルーツを探るべく、北海道別海からダムに沈んだ福井県九頭竜川の村まで取材は広範囲にわたっていく。
木嶋が育った“ど田舎”の別海と、木嶋が毒婦になっていく“大都会”の東京を対比させることにより、ゆがんだ木嶋の精神と性癖を、事件の根源として一族のルーツとその格差に求めていくのはあまりにもこじつけである。
『東電OL殺人事件』でみせた、執拗な裏取材に基づいた説得力の鋭さは本書にはなく、人間心理を深く読み込む佐野のこれまでの手法が、とってつけたような安易な“決め付け”に変わっている。
「木嶋、お前がやったに違いない」…気づいたときには、こんな感じで全編を読まされしてまったと思う。
被害者たちと木嶋との関わりも充分に書ききれていないし、何よりも木嶋ブームに乗り遅れまいと、適当な取材で妥協し、出版したことも、一攫千金を狙った薄っ平な作品に思えて、佐野のファンとして残念でならない。

別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判
(2012/05/25)
佐野 眞一

商品詳細を見る
[ 2012/10/14 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

百田尚樹著 『海賊とよばれた男』

僕にとっては目が話せない作家、百田尚樹の書き下ろし新作『海賊とよばれた男』を読んだ。
上下巻の大作ながら、一気読み。
物語の主人公は日本の石油王と呼ばれた出光興産創業者の出光佐三氏である。
裸一貫から日本を代表する企業である出光グループを作り上げるサクセスストーリーであるが、
その波乱万丈の“熱い”物語に、血肉が踊るほどの感動を味わうことができた。
人を信じるがゆえに、馘首をしない、出勤簿なし、定年制無し…という破天荒な社風は、社員を家族の一員として
信頼していく佐三氏(作品内では国岡鐵三)の信念に、武士道を漂わせた明治男の頑なな正義が見える。
こうした社風は平成にまで受け継がれ、出光興産は唯一の民族系石油会社として存続をしてきている。

百田尚樹の作品は、『錨を捨てよ』や『ボックス』、『風の中のマリア』や『聖夜の贈り物』、前作の時代小説の『影法師』にしかり、1作ごとに作風を変え、様々なカテゴリーへのチャレンジを意図的に行ってきているが、今回の作品は、ノンフィクションを十分に意識した企業小説、立志伝、評伝として、そのチャレンジが成功した出来になったと思う。
まさに“百田ワールド”。
『永遠の0』を読んだ人ならば、思わずニヤリとするサービス精神にも感心するだろう。

海賊とよばれた男 上海賊とよばれた男 上
(2012/07/12)
百田 尚樹

商品詳細を見る
[ 2012/09/27 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

増田俊也著 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』

この2週間ひたすら読み続けた、実に2段組7000ページの大作。
戦前から戦中にかけて、「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」と言われた日本最強の柔道家のノンフィクションである。戦前の全日本柔道選士権を3連覇し、天覧試合を優勝、15年間不敗を誇った男がなぜ力道山との決戦(1954年)で破れたのか…。
それは本当に真剣勝負だったのか、プロレスというショービジネスを背景にした八百長まがいの見世物だったのか、2人とも故人となった今、その真実はいまだ謎に包まれたままだ。
本書は木村の生い立ちから師匠牛島辰熊との出会い、一日9時間の練習を重ねた拓殖大学柔道部時代、そして終戦後のプロ柔道旗揚げからプロレスへの転進、力動山との因縁の対決、その後の流転の人生を追跡し、あますところなく綴っていく。
著者自身も北大柔道部出身ということで、18年に及ぶ取材を通して、柔道への愛情、カリスマ木村政彦への強い思いをこの作品にぶつけたという背景がある。

アマチュア時代の木村政彦の全盛期の強さを記録する映像は残っていないが、力道山との対戦以外にもブラジル最強の格闘家エリオ・グレーシーとの試合や、木村が60歳のときの大外刈りから寝技に持ち込む強烈な映像が今もYouTubeで観ることができる。改めて木村政彦の凄さを感じることができると思う。
力道山との試合の時には、まだ生まれていなかった僕はリアルタイムでもちろん観ていたわけではないが、テレビの黎明期に重なった当時を生きた人々にとって最高のパフォーマンスであり、今も語り草になっている出来事だったようだ。
今度、実家に戻ったら、老いた親父に「木村政彦を知っているか」と、聞いてみようと思う。

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか
(2011/09/30)
増田 俊也

商品詳細を見る
[ 2012/06/16 ] 読書 | TB(0) | CM(1)

「河北新報のいちばん長い日」

ドラマ化もされて話題になった本。
東京出張の往復の新幹線の中で、一気読み。

東日本大震災という未曽有の災害に遭遇したなかで、
新聞を毎日発行し続けるという社員達の執念が、この本の骨格である。
創業以来114年間に渡っての新聞事業へのこだわりが、企業理念と見事に調和して、
社員一人ひとりにDNAとして受け継がれているのだ。

また、東北で起こった災害を、東北の新聞社として、東北の人々に伝えたいという
強い使命感で、スクープばかりにこだわらず、読者の顔を見ながらタイトルの
一字一句にまで気遣いをするスタンスがすばらしい。
「死者」ではなく「犠牲者」と置き換える心遣いである。
河北新報が長きに亘り、地域に根ざす新聞として、地元民から支持されているゆえんだろう。

実名による文章も真実感があり、ノンフィクションの読み物としても成功していると思う。

河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙
(2011/10/27)
河北新報社

商品詳細を見る
[ 2012/05/16 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

小沢正樹著 「鍾馗さんを探せ!!」

私のサイトと相互リンクしている、「鍾馗博物館」のkiteさんの自著。

京都の町に残る三千体の鍾馗さんを訪ねて、ウンチクや研究成果をまとめた内容です。
誰もが気軽に手に取れるように、肩が凝らないガイドブック風になっているので、
京都散策の旅人には、また違った京都の魅力を感じ取ることができそうです。

そもそも、私が鍾馗さんの存在を知ったのは、kiteさんのサイトが最初でしたが、
おそらくこの本を手にとることで、初めて鍾馗さんに触れる方もいるかもしれません。
一口にその魅力は千差万別で、歴史的意味合いや多様なデザイン、探索の楽しさ等、
多方面の興味深い情報提供をされているのが、この本の一番のウリだと思います。
掲載されている鍾馗さんそれぞれに、愛着をもったメッセージが添えられており、
一体の鍾馗さんを求めて、路地の隅々まで訪ね歩く著者の執念も伝わってきます。

※出版社の戦略なのか、女性の購入者を意識して(?)、カメラを提げたモデルの女性をちりばめているレイアウトが少々気になりますが、旅行雑誌やタウン誌のような軽いノリで、地味な鍾馗さんの世界を広く伝えようという努力は買いたいと思います。

鍾馗さんを探せ!!: 京都の屋根のちいさな守り神鍾馗さんを探せ!!: 京都の屋根のちいさな守り神
(2012/02/10)
小澤 正樹

商品詳細を見る
[ 2012/04/28 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

池井戸潤著 『下町ロケット』

今更だが、ようやくこの話題作を読んだ。
図書館の予約待ちもまだまだ先なので、我慢しきれずに職場の同僚から借りたのだ。

一気読み、そして爽やかな読了感。
久しぶりに読書を楽しんだ気分になれた作品だった。
大企業が横暴かつ悪者に描かれ過ぎたきらいもあるが、
ドラマを盛り上げるには、これも重要なポイントなのだろう。
また特許をめぐる訴訟のいやらしさや、弁護人どうしの闘い…。
内容を引き締める緊張感のある要素も随所にあって、作品の質を更に高めているように感じた。

すでにNHKでドラマ化されたようだが、残念ながら見逃してしまった。
願わくは、映画化を望みたい。

下町ロケット下町ロケット
(2010/11/24)
池井戸 潤

商品詳細を見る
[ 2012/03/18 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

谷甲州 『単独行者~新・加藤文太郎伝』

不世出の単独行者・加藤文太郎の自伝。500頁を一気に読んだ。
著者は1996年刊の『白き嶺の男』(新田次郎文学賞受賞)で加藤のことを書いているが、
その刊行にあたってもう一度、加藤の物語を書くと宣言をしていた。
10数年を経て、その約束を果たしたのが本書である。
内容はコテコテの山描写がこれでもかと続く。加藤の山に向ける執念と内面の変化を余すところなく描いていく。
ひとりの人間としての強さも弱さも、そしてパーティを組まない単独行者としての苦悩。

『単独行』の著作で有名な加藤文太郎を描いた作品には、新田次郎の『孤高の人』があるが、
個人的にはおそらくこの作品を超えるものはないと思っていた。
しかし、谷甲州のこの作品を読んで、改めてそれを“超えた”作品に出会えたと確信した。
鳥肌が立つような重厚感をもった作品を書き上げた作者に、感謝したい。

単独行者(アラインゲンガー)新・加藤文太郎伝単独行者(アラインゲンガー)新・加藤文太郎伝
(2010/09/16)
谷 甲州

商品詳細を見る
[ 2012/03/04 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

『道化師の蝶』と『共食い』を読む

芥川賞発表号の文芸春秋3月号を買った。
円城塔『道化師の蝶』と田中慎弥『共食い』の二つの受賞作が載ったおいしい一冊。
『道化師の蝶』は、「好きにしろよ!」「勝手にやっとくれ!」とでも言おうか(笑)。
自分が思いついたフレーズを延々と書き連ねていく文章に、ほとほと嫌気がさした。
円城塔の文体は難解である…と評している人もいるが、理解しようと思うことに無理があるような気がする。最後まで辛抱強く読んでみたが、(オレは馬鹿だから理解できないんだろう)と、増幅していく疲れに自虐的になるばかり。
しかし、冷静になって考えてみると、この作品は所詮、作者の独りよがりの押しつけであると思いたくなる。
選考委員の石原慎太郎いわく「こうしたできの悪いゲームにつき合わされる読者は気の毒というよりない」…は、まったく同感だ。
作者は「エンジニアをしている人間が今のメインストリームの小説を読んで楽しいかというと、たぶん楽しくないんですよ」とコメントしているが、本当にそうなのか?
最初から馬鹿はお呼びでないのか?
この作品をパーツごとに分解し勝手な解釈で分析し、注釈をつけている書評を見かけたが、「難解な文章、理解できるんだよ」とでも自慢したいのだろうか。無駄な努力に頭が下がる。
この作者、おそらくこの先も読むことはないだろうが、興味がある方は“文章の迷路”と付きあっていただきたい。

次に『共食い』。これは正直言って、“うまい”と唸る部分をそこかしこに感じた。
書き慣れているというか、句読点1つにも繊細さがにじみ出ている作品だと思う。
しかし、暗い。暗すぎる。
すぐに連想したのは、車谷長吉の1998年直木賞受賞作『赤目四十八瀧心中未遂』の、薄暗い土間から誰かに覗かれているような全編に漂う暗さと、冷や汗が出るようなグロテスクな日野日出志のホラー漫画。
『共食い』は昭和時代に舞い戻ってしまったような古臭さと、どぶ川の匂いがいつまでも鼻につくような気色悪さを感じた。
ただ、それでいてこの作者の作品を、次も読みたいと思うのは、やはり“怖いもの見たさ”からだろうか。

文藝春秋 2012年 03月号 [雑誌]文藝春秋 2012年 03月号 [雑誌]
(2012/02/10)
不明

商品詳細を見る
[ 2012/02/20 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

P.コーンウェル『変死体』

検屍官シリーズ第18弾。今年も上下巻をようやく読みきった。
最初はいつものようにチンタラペース。ここで脱落する人は、このシリーズを読むことには向いていない。
とにかく活字がびっしり詰った長編なので、読みきるのに根気と精力がいる。おそらく全シリーズを読み続けている読者は、そんなに多くはないだろうと勝手に思う。
『変死体』はこれまでのシリーズの中で、サービス精神に富んだ作品に仕上がったと思う。
ずっと気になっている登場人物たちのプロフィールが、かなり際どいところまで描かれているからだ。
例えば、主人公のケイ・スカーペッタの片腕ともいえるジャック・フィールデングの年齢が47歳であり、
筋肉増強剤を使用するマッチョであったり、ピート・マリーノの頭髪が禿げ頭の上にほんのちょこんと乗っているとか…これ以上書くとネタバレになってしまうが…。
言うなれば、このシリーズもいよいよ終盤に入ってきたような、そんな印象を受けるのだ。

ケイ・スカーペッタはおそらく50才を超え、更年期に指しかかったのか、初期のシリーズに濃く出ていた女性らしさや行動的なハツラツさを含めて、女性としての色気も徐々に薄れてきたように見える。
老い=魅力がなくなる…ということではない。

20年以上続いているシリーズらしく、著者も読者も作品とともにゆっくりと年輪を重ねている。
願わくば、まだまだ続いて欲しい。

変死体(上) (講談社文庫)変死体(上) (講談社文庫)
(2011/12/15)
パトリシア・コーンウェル

商品詳細を見る
[ 2012/02/18 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

永遠の0(ゼロ)

久しぶりに心躍る作品を読んだ。
百田尚樹著『永遠の0』だ。
戦記、ミステリー、ヒューマンを掛け合わせた巧みな構成に思わず唸ってしまった。
ここ数年読んだ小説の中でも、一番印象に残った作品だったといっておこう。

物語は太平洋戦争の時代。“天才で臆病”といわれた神風特攻隊兵士が主人公である。タイトルの“0”とは零戦のことを指す。真珠湾攻撃から始まり、終戦までの4年間を、生き残った戦友たちの証言をもって綴っていく。
そのまま映画化してもいいくらい、まるでパズルのピースを一枚ずつはめていくように、物語は進んでいく。
それもそのはず、作者はテレビ番組の構成作家が本業である。押さえどころをよく分かっている。
これまで戦争モノは、どちらかというと苦手意識があって引いていたが、このカテゴリーに少し興味が出てきた。

百田尚樹の存在は知っていたもの、自分にとってまったく縁がなかった作家。今年になってから『錨を上げよ』を初めて開いたが、たちまちその絶妙な構成とテンポに魅了されてしまった。
宮部みゆきや東野圭吾ほど下手ではないが、花村萬月と同様に描写や会話の荒削りの表現が気になるところもある。しかし、“うまい作家”には違いないだろう。
他にも作品が出ているようなので、機会を見つけて読んでみたい。

永遠の0 (ゼロ)永遠の0 (ゼロ)
(2006/08/24)
百田 尚樹

商品詳細を見る
[ 2011/10/29 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

又三と惟朔…百田尚樹著『錨を上げよ』を読む 

暇に任せて本を読んでいるが、いつも思うのは100冊の良書よりも、1冊の“魂が揺さぶられる”本に出遭いたいと思っている。
百田尚樹『錨を上げよ』上下巻(講談社)は、今の僕にとってはまさにそんな作品。
著者の自伝的小説とも言える大作である。
古くは五木寛之『青春の門』しかり、青春大河小説と呼ばれるものは数あるが、
最後まで読者を掴んで離さない冴えわたる筆致と、爽やかな読後感を与えてくれる作品は案外少ない。
『錨を上げよ』はまさにそれに値する作品であると思えた。

著者の分身とも言える主人公=作田又三の不器用で無鉄砲な生き方は、
昨年読んだ花村萬月の自伝小説『百万遍』(青の時代上下巻・古都恋情上下巻)の主人公・惟朔に通じるものがある。
昭和30年代生まれのオジサン世代なら、比較しながらぜひ両方の作品を読んで欲しいと思う。

又三と惟朔…魅力的なキャラクターを生み出したどちらの作品も甲乙つけがたい。
この2冊は、今のところ僕の“魂が揺さぶられる”一押し本である。

錨を上げよ(上) (100周年書き下ろし)錨を上げよ(上) (100周年書き下ろし)
(2010/11/30)
百田 尚樹

商品詳細を見る
[ 2011/02/15 ] 読書 | TB(0) | CM(2)